イベント EVENTS REPORTS 10周年記念第3回トークイベント|2018年11月17日 人間は今どこにいるのか?

10周年記念第3回トークイベント|2018年11月17日

人間は今どこにいるのか?

チラシ

第1部

越境のポリティクス

モデレーター:小林康夫
前半パネリスト:沖本幸子、ヴィクトリア・ストイロヴァ コメンテーター:竹内孝宏
後半パネリスト&インタヴュアー:飯笹佐代子、パネリスト:柳瀬房子、カディサ・ベコム (企画責任者)
〈越境する人々――国境管理の現在〉

難民と日本社会

難民認定されるかどうかの基準とは?

質問2

今の難民申請者の審査期間が長いという話を聞いていて気になったのですが、日本政府は具体的にどういった基準で、認定するかどうかを判断しているのでしょうか? 認められた人と認められなかった人との違いは何でしょう?

カディザ

私の場合は夫が難民認定されて、私自身は妻として呼び寄せられたので申請待ちには関わっていないのですが、彼の場合は2年半くらい待たされました。でもとても運が良かったので2年半で認定されたそうなんです。この10年、ロヒンギャ人の申請が20人ぐらいいる中で認定されたのは彼一人です。
日本が一番求めているのが客観的な証拠です。彼のお父さんが政治家で、軍事の本や論文を書いている有名な作家でもあり、義父自身も軍事政権に逮捕されそうになってバングラデシュに逃れてきたんですね。夫の申請にあたっては、それを全部調べるためにわざわざバングラデシュに行って、義父の住んでいたアパートまで行って著書なども全部見て、本当かどうかを調査したそうです。他の人も似たような状況なんですが、認定されなかったのは客観的な証拠がないから。彼の友達で同じ時期に申請したまま、未だに認定待ちで、結婚もできずに50代になって、人生の半分が過ぎてしまったという人もいます。認定された夫は、家族を持ち、日本で生活できている。これほど大きな差が出てしまっているんです。

「難民認定までにかかる時間や、認定されるかどうかで、日本での人生に大きな差が出てきてしまう」と語るカディザさん

柳瀬

必ずしも客観的な証拠が絶対に必要というわけではないのです。審査している側からすると、話を聞いても辻褄があっていない。一人の人に1時間から1時間半くらい通訳を交えて話を聞くのですが、例えばアフリカのどこかの国からどこかの国へ行き、そこから飛行機に乗って日本に来たという難民申請者がいるとします。その人に「Aの都市からBの都市まで行くのにどれくらい時間かかった?」と質問すると、5千キロくらいあり、本来3日はかかるルートを「半日かな?」って言う。「じゃあ飛行機を使ったの?」って聞くと、「飛行機じゃない、バスだ」となると、どう考えれば良いのかわからなくなる。証拠だけを求めているわけではなくて、信憑性を求めているんです。

それと日本政府は、難民条約の条文を厳しく遵守して難民受け入れの審査をしようとします。今のその国の政治状況を考えたら、難民と考えてもいいじゃないかという解釈の余地が少ないのです。私はそういう場合は、この申請者は難民としての認定は無理でも難民に準ずる在留特別許可を出してくださいという意見書を書いて法務省へ提出しているんですが、こうした意見書を提出したくなるような申請者は、実のところ今の日本にあまり来ていないのです。

飯笹

つまり、日本の難民認定制度は非常に厳格で、ドイツやオーストラリアなどの諸外国と比べても難民と認められにくい。その一方で、最近の難民申請者には就労目的と思われる人が少なくない。そういうなかで、シリア難民やロヒンギャ難民など、本来すぐに「難民」として認めてあげなければならない人たちをいち早く認定して支援することが日本の課題だということは間違いないと思います。最後に小林先生お願いします。

小林

私は専門外ですが、いまお話くださったお二人が院生であり卒業生で、その方たちとこうしたパネルディスカッションができるというのは、他の大学や学部ではなかなかできないことで、総文の豊かさを形作っていると感じました。
難民は、国家の権力装置が人民を抑圧する方向にも機能するという問題です。国家は属する者と属さない者とに線を引く機構である。だからその国家から逃れるために越境しなければならないことがあって、それを制度的にどう扱うか。
同時に、我々自身が国家に閉じこもっているのではなく、国家を越えたヒューマニティを一人ひとりが持たないと国は変わらない。国が起こしている問題を、国に変えてよと任せても解決できるわけがない。むしろ国を越えた人間の力をいかに育てていくかが大切なんですね。そのためにも、口だけで「難民はね」って唱えているんじゃなくて、実際に人と人が具体的に知り合うことから、出会うことから始まる。そういうふうまとめさせていただきます。皆さん、ありがとうございました。

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