イベント EVENTS REPORTS 10周年記念第3回トークイベント|2018年11月17日 人間は今どこにいるのか?

10周年記念第3回トークイベント|2018年11月17日

人間は今どこにいるのか?

チラシ

第1部

越境のポリティクス

モデレーター:小林康夫
前半パネリスト:沖本幸子、ヴィクトリア・ストイロヴァ コメンテーター:竹内孝宏
後半パネリスト&インタヴュアー:飯笹佐代子、パネリスト:柳瀬房子、カディサ・ベコム (企画責任者)
〈越境する人々――国境管理の現在〉

難民と日本社会

日本の難民受け入れ制度

飯笹

ありがとうございました。もっとうかがいたいのですが、皆さんの中にも「こんなことを聞いてみたい」という疑問があると思いますので、せっかく来ていただいたお二人に、遠慮なくご質問いただけますか?

質問1

難民をいかに受け入れるかということは、結局、政治の話になると思います。例えばスウェーデンの場合は、現在約2万5000人の難民を受け入れていて、難民申請をすると衣食をまかなう現金給付があるほか、仕事にも就けるし、18歳未満の子供は無償で教育が受けられます。日本の場合も越境される側として、しっかりとした制度が必要だと思うのですが、いかがでしょう。

飯笹

実は日本にも「第三国定住制度」という、第三国の難民キャンプから受け入れる制度があります。現在はミャンマー難民が対象で、生活援助費が支給されるほか、約半年間の定住支援プログラムも受けられるのです。日本政府はこの制度を2010年に開始したのですが、あまり来てくれないんですね。そのあたり、柳瀬さんはどう思われますか?

柳瀬

「日本は難民に冷たい」とこれまでずっと言われてきました。日本に来てから難民申請する人の数の推移をみると、ここ数年で増えており、2010年が1202人、2013年が3260人、2014年が5000人、2016年に1万人を超え、2017年には19329人と2万人近くの申請者がいますが、難民に認定されたのは、2017年はわずか20人でした。

ただ、日本で難民申請する人の出身国を見ると、シリアやアフガニスタンではなく、多くは東南アジアからで、日本で働きたいという方が大部分です。政府は一人ひとりの申請者の審査にすごく丁寧に時間をかけています。申請してから決裁が出るまで、2,3年もかかるのが普通です。時間がかかるがゆえに、2010年に申請後7カ月目から就労することができるようにしたのですが、それを「就労ビザ」だとだまされている人も多く、中間に立つ業者が悪用するケースも多いのです。日本で働くために、飛行機代や当初の生活費などとして多額の借金をし、いつまでもその借金も返せず、大変困った事態になるという人も大勢います。そのために、申請者の中には条約上、本当の難民、難民としての蓋然性が高い人がいるのに、その方が審査を受ける順番がなかなか来ない、その人を探すのに時間がかかっているというのが現実なのです。

第三国定住については、難民条約の加盟国がお互いに、海外の難民キャンプで難民として認定された人を受け入れるよう、応分の負担をしましょうという仕組みです。
私が日本政府に対して残念に思うのは、他の国に先駆けて日本が率先して引き受ける姿勢が、インドシナ難民以来見られないことなのです。ミャンマーを脱出してタイの難民キャンプに避難していたカレン、カチンをはじめとする少数民族の問題は、1990年代から国際的な大きな問題になっていました。アメリカやオーストラリアなど1000人、2000人とどんどん受け入れていたのに、2010年頃になってやっと「日本に来ませんか」と募集を始めたんですね。ですから、本当に助けてほしいときは手をこまねいていると言われました。ですから、応募者ゼロという年も1年ありました。

インドシナ難民の場合も、本当に支援が求められていた1975年~80年代末まではまったく受け入れない。しかし、78年になって、日本での先進国首脳会議や日米首脳会談などによる「外圧」に抗しきれず、いきなり受け入れ枠を500人にし、そして1982年に難民条約に加入後、ようやく少しずつ受け入れ人数を増やしていきました。「ボートピープル」が減少した80年から、1000人、5000人、10000人と増やしたわけです。本当に助けてほしいときに受け入れていれば、日本に来たいと希望する難民の人はもっと大勢いたと思うんですよ。受け入れ決定のタイミングの遅れ、それが「難民に冷たい日本」というレッテルを貼られてしまった一因がと思います。未だに尾を引いているんです。

でも私は、大勢の難民、それも一人ひとりとお付き合いさせていただいて、その方たちのすばらしさや、日本社会の中での頑張りを見ています。今では、日本の社会を引っ張ってくださっている方もたくさんいて、今度はその方たちが難民を助ける会に募金をしてくださり、役員になってくださるなど、少しでも恩返ししたいといいながら協力してくださっています。そういう良い循環を作っていかなければいけないと思うのです。

「難民一人ひとりのすばらしさや頑張りを間近に見てきた」と語る柳瀬さん

飯笹

難民を受け入れる制度は一応あっても、その制度がうまく機能していない、政策決定のタイミング的な問題も大きい、あるいは難民認定制度が一部で人手不足の労働市場を補填するために利用されているという、日本社会の諸課題が難民問題から見えてきます。

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