イベント EVENTS REPORTS 総文創設10周年記念 クロージングシンポジウム|2019年3月2日 総文のアイデンティティと「これからの10年」

総文創設10周年記念 クロージングシンポジウム|2019年3月2日

総文のアイデンティティと「これからの10年」

チラシ

第2部:パネルディスカッション

「これからの10年」に向けて

モデレーター:小林康夫、パネリスト:竹内孝宏、イヴォナ・メルクレイン、中野昌宏 (企画責任者)
言い残したことなど
小林

このディスカッションに備えて、皆さんきっと準備なさってきたことがあったのに、それを無視してここまで熱く議論してきましたが、最後になにか言い残したことがあればひとことお願いします。

竹内

学芸と公共性の関係について簡単にお話ししたいと思います。早稲田大学教授の齋藤純一さんが『公共性』いう本の中で、「intimate sphere親密圏」が公共性を育む場になるんじゃないかと言っているんです。ちょっと読みます。

新しい価値の提起は、言説の政治という形をただちにとるとは限らない。それは「ディスプレイの政治」とよぶべき形をとることもある。つまり、価値観を異にする他者に対して訴えの言語、説得の言語をもって向き合うというよりもむしろ、 別様の暮らし方の提示、別様のパフォーマンスの提示(障碍者演劇など)、別様の作品の提示といったスタイルをとる。そうした別様の世界の開示は、それを見聞きする者たちによって言説のレヴェルに翻訳されたり、それを倣るミメーシスの実践を触発していく。

(齋藤純一『公共性』岩波書店、2000年、p.97)

竹内

これが私の思い描いている流れでして、それは自分自身は言説の政治としてはもう脱落したという自覚があるからなんですけど、ディスプレイならば、まだ総文でも私の役割はあるかなと思っています。

メルクレイン

第1部の最後に「総合病院」というキーワードが出てきましたが、文化というのは総合病院ではなくて「総合墓地」ですね。死者やゴーストとの対話です。それが意外と面白くて、楽しいということを学生に伝えたいと思います。
先ほど梅津先生がなさったフランクリンのお話を、私、非常に嬉しく聞きました。私もメディア史の授業で、いつも100ドル札を出して「この人は誰か知っていますか?」って学生に聞いているんです。英語での授業なのでアメリカ人留学生がいて、フランクリンだということは答えられるのですが、ではなぜ100ドル札に載っているのかと問いかけて、そこから彼のアメリカのジャーナリズムの先駆けとしての活躍を紹介していくんです。今日は、まさにフランクリンのゴーストが梅津先生と私の間に飛んできたんですね。ゴーストとの対話の素晴らしさを学生に伝えられれば我々のミッションがコンプリートすると思います。

中野

学生に「現場」を与えるということ、が重要ということになりそうです。一つつらいなあと思っているのは、私自身が現場の人間といえるかどうかというところですね。理論から始まっているので。

小林

バイオリンがあるじゃないですか。

中野

ゼミを拡大版の公開ゼミにして、音楽とレクチャーをセットにしたような試みをしたり、イベントを企画したりもしていて、学生も喜んで学んでくれているとは思うんですけど、イベントで釣っているような気もしてなんとなく後ろめたいです。イベントのために学生を駆り出していいのかとか……。もちろん学生に聞くと、「よかったです」とは言いますよ。そりゃ先生が聞けば「面白くもなんともなかった」とは言えないだろうという。「勉強だから一緒に付き合って」と呼びかけるわけですけど、それって「偽善」じゃないかとか……。

小林

中野先生ご自身が先ほど、何年か経って初めて学生に届くものがあるとおっしゃっているので、それでOKじゃないですか?
では最後に、会場からも質問やコメントを受け付けたいと思います。まず、この総文10周年の企画をお考えになった堀内先生と鳥越先生からお願いします。

堀内

文化を対象にする人文系の人たちって大変だなあというのが正直な感想です。我々経営学は、企業がつぶれちゃいけないという目標がはっきりしていて、教育や研究システムも決まっています。アメリカでMBAが盛んなのは、教えるほうも楽だからですよね。コースパケットがあって、パケットを教えたらおしまいで、学生からの評価が良ければ問題ない。ただ我々でも一番偉くなった人は、「経営学の美」という本を書くんですよね。やはり最後に行き着くのは美で、美しいってなんだろう、というところに私も行きたいと思っています。

小林

鳥越先生はいかがでしたか。

鳥越

中野先生が最後に「学生を駆り出すのはちょっと後ろめたい」と おっしゃっていましたよね。私の場合は、それをやっていくことが自分のアイデンティティだというところがあって、でも本日の議論で、現場の大切さや背中を見せることの必要性を皆さんおっしゃっていましたので、悩まずにきっぱり、「こうやるのがいい」と言える力をいただけたように思います。

小林

今日のシンポジウムで何か今後の10周年の手掛かりが得られたでしょうか。

鳥越

総文に来てからの10年間、ずっと私こういう機会があるといいなと思っていたのですが、皆さん普段すごく忙しくて、こういったことを話す時間はなかったわけですね。でも、私たち自身がファカルティの中で刺激を与えあって、ここに所属したからこそのクリエイティビティの機会や学びがあると思い続けて、皆さんを巻き込んでこういったひとときが持てた。とても満足でありがたく思っています。

「総文ならではのクリエイティビティの機会や学びがあることが再確認できました」と鳥越けい子教授

小林

本日はどうもありがとうございました。

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