プレイベント | 2018年2月26日
教育理念のところですが、これは「創造的世界市民の育成」という言葉を使っています。
言うまでもなく「世界市民」という言葉は、これもカント由来です。これはそのまま世界のどこでも通じます。ただ、世界市民の育成ということだけですとリベラルアーツになってしまいます。そこに「創造的」を付けたところに意味がある。つまり分化した学問性を総合していく動的な意味合いを持たせ現代化した。その場合、一言だけ申し上げると、創造的ということで未来の自分の〈場〉をつくるとは言っていません。未来に〈場〉を与えると言っているわけですから。それは本来的に自分ひとりのための〈場〉ではありません。「自らの人格と他のすべての人の人格のうちにある人間性を、いついかなる場合も手段としてのみならず目的として扱うこと」というのは、第二批判(『実践理性批判』)ではなく、『道徳形而上学の基礎づけ』の定言命法の第二形式ですが、そういった意味で世界市民の〈場〉を考えていくということ、それが「創造的」というここでの意味と考えております。
青山コミュニティラボ(ACL)は青山学院アスタジオの2階に構えている
この繋がりで、これはまあ「裏声」みたいなものですが、研究のほうでは「理性の公的使用」というのがあげられています。これもカントですね。『啓蒙とは何か』の中に出てきますが、そこでは「理性の私的使用」と比較して出てきます。「理性の公的使用」と言った場合は、世界市民に開かれるということですね。これも厳密に考え始めると難しいのですが、いちおうこの意味では、総合文化政策学部の場合は、国民国家を枠組みとして前提とした「国際」=インターナショナル、物理的空間としての「全球」=グローバルではなく、「世界」が射程なんだということになります。組織としては、うちにはACLがありますように教育・研究・運動の三位一体で行こうということが最初から構想されていました。
次にいちおうそういうコンセプトの下で、学部研究科組織の基本設計としては、こんなことをイメージしていたということになります。三位一体ということで、学部にはゼミとラボアトリエ実習というのが両輪で組み込まれています。大学院の総合文化政策学専攻、5年制ですね、これが学術研究としての次世代養成。単なる学際ということじゃなく、また原理を学んで応用問題も器用にこなせますということでなく、まず自らの拠って立つディシプリンをいちおう確立したうえで、領域を「横断」していって欲しい、これはジル・ドゥルーズですね、そういうノマド的な知性を持ってもらいたいということで、「知の横断」ということを当時頻りにそこで言っておりました。そして博士学位まで来たら、どのような研究領域であっても、「公共」ということをいったん通過して、「理性の公的使用」ということを考えてもらったうえで、研究生活に本格的に進んでいってもらいたいということでありました。
学部・研究科組織の基本設計
それから文化創造マネジメント専攻の2年制のほうですね。この設計思想については、先ほど述べたところでもありますが、まず学部から考えていきますと、今の日本の環境では学部を卒業して、4年間で何か文化創造の担い手となれるなんていうことは、よほどのことがないと難しい。だから、卒業してからも社会に出て、そこで自分が得たテーマについてどこかで行き詰まったとき、夜にでも学校に帰ってきて、やり残したことをそこで何度でも取り組み直す〈場〉があったほうがいいと。そこはニューヨークの大学から学び、学部教育課程でやりきれないであろうことを籠めて、4年の教育課程に縛られず、10年一緒に走れる学部ということで出発したプロジェクトですから、卒業生にそういう〈場〉をきちんとつくっておくこととしました。そこで都心部立地の強みを活かすんだということがありました。もちろん、社会人や留学生、他大学や他学部を卒業して大学院から来られる方も含め、異年齢の、キャリアや活動領域を異にするものが相互に学び合い、研究をインスパイアしていけるような〈場〉としていきたいということも当然考えられています。
さらにACLがありますね。ACLは研究所です。ただ、この研究所は青山ということですから、そしてコミュニティ・ラボということですから、青山に足場を持った、いわば学部とか研究科ということだけに制約されない、広がりを持った〈場〉となり得るような研究所として想定されたということになろうかと思います。先生方の研究ということと別に、これも学部から考えますと、このACLのマネジメントで、今はいろんな企業の方と一緒に、例えば学部学生をラボアトリエ実習で育てていただいていますが、構想の中で考えたのは、卒業生たちがいつか帰ってきて、自分たちのテーマで先生方と一緒に〈実践知〉を踏まえて研究を進め、院生なども含め、自分たちの後輩を育てていけるようなリーダーとなっていってもらいたい、研究と教育を通じ次世代養成をもマネジメントできる研究運動共同体としての研究所にしていきたいという気持ちがあります。そういった意味で、ACLはまだレッスン段階、ようやくそのファースト・ステージが見えてきたというところだと思います。大学院修了者についてはその循環がすでに始まっていますが、学部からということになりますと何しろ学部1期生は卒業してまだ6年ですので。