みなさんがご覧になっているこの「総文10周年特設サイト」は、2018年に学部創設10周年を迎えた青山学院大学総合政策学部(総文)の10周年記念事業を記録し、「総文の歩み/総文の今」とともに、事業終了後も「総文の魅力/今後の可能性」を発信するコンテンツとして長く公開することを目的としたものです。
「総文10周年記念事業」は、単に10周年をアピールする事業ではなく、総文がなければ出会うことのなかった、共に働くことのなかった人々が、共に集い、その出会いの意味を考えるための場づくりの試みでした。総文を「まち」に例えるなら、この事業は、大学あるいは現代社会という都市における新たな「まちづくり活動」であり、総文のメンバーが1年を通じて、共に集い学び合い、自分たちの未来を考えるための「お祭り」だったと言うことができます。
つまりこのサイトは、これからも成長を続けていく「総文というまちの10歳」を記念し、総文を構成する人々の活動をひとつにまとめ、共に未来を構想したお祭りの活動記録。サイトを訪れたみなさんには、新たな文化を創造しようと格闘する総文のエネルギーを感じ取っていただけることと思います。
さて、「総文」には学部や大学院のほか、ACL(青山コミュニティラボ)という研究所、そして普段はほとんど表に出ることはない「青山学院大学総合文化政策学会」があります。筆者は2016年度から3年間、学部長の指名を受け、その責任者を務めていました。
2016年秋、堀内正博教授(当時学部長)から次のような話がありました。「我々の学部は、もうすぐ創設10周年を迎える。学部執行部としては、総文の今後のビジョン、OBOGのネットワークづくり、カリキュラムの改変等を検討しているので、総合文化政策学会として、10周年を記念するシンポジウム等の催事を企画してもらえないだろうか?」
総文には、人文学(哲学・歴史・文学)から建築・デザイン、社会科学の諸分野に至るまで、実に多様な専門をもつ研究者たちが所属しています。そうした異なる学問的背景をもつ研究者・実践者たちが共に活動したとき、初めて生まれてくる新たな価値や可能性があり、そこにこそ総文そのものの教育・研究両面にわたる魅力と存在意義があるはず……。2008年春に発足した総合文化政策学部に所属して以来、筆者はずっとそう考えていました。
従来型の学部や大学院の場合、学会等の活動を通じ、職場の同僚についての研究等の活動については、その情報やイメージを比較的共有しやすい。一方「総文」においてはそうした常識が通じないからこその「職場の魅力と可能性」がある……。こうしたことを確認する機会として最初に実現したのは、2017年度、教授会終了後の1時間ほどの時間帯を利用し、総合文化政策学会の主催で(前後期各3回ほどのペースで、堀内学部長との相談のもと)開催した「ファカルティートーク」でした。
毎回2名の(教授会構成メンバーとほぼ重なる)学会正会員が、各自の専門に留まらずその背景にある人生を語った後に全体討論をするという「ファカルティートーク」のひとときに、筆者は「学会報告」や「研究会」とは異なる深みと広がり等を確認し、その実感を他の同僚たちと共有することができました。一方、いつ何が起こるか分からない教授会の議事との調整の難しさ等に加えて、ファカルティーメンバー個々人の立場からすると、日常業務や研究活動の忙しさ等のため、そうしたリアルな交流の場づくりの難しさを確認し、そのためにはさらなる工夫が必要であると感じるようになっていました。
堀内先生から受けた「10周年記念事業企画」の打診とその検討時期は、このファカルティートークの準備と開催期間とに重なります。そして、学会が10周年事業の一部を担うとしたら「10周年」という特別なタイミングだからこそ「総文メンバー全員のためのコミュニケーションの場づくり」を試みることができる。また、それを単なる一過性のイベントに留めず、その内容をコンテンツとした「総文10年目の記録」を作成することで、「総文の歴史と今」を共有・発信し、総文の今後を考えるための貴重な資料のひとつとしたい…と考えるようになったのです。
出典:総文10周年記念事業:基本方針の確認と作業内容の整理
2017年12月26日 教授会提出資料より
「10周年記念事業」の企画・制作にあたったのは、筆者(当時学会長)をはじめ、宮澤淳一教授(当時学会副会長/サバティカルのため2017年後期より中野昌宏教授に交代)、飯笹佐代子教授(学会理事)、さらに2018年度からは学部長を茂牧人教授と交代した堀内正博教授で構成される「10周年記念事業委員会」です。
2017年5月の学会総会において、記念事業が学会の活動として正式に位置付けられて以降、事業コンセプトやプログラム概要の立案に始まり、会員へのヒアリング、プログラムの運営方法など1年にわたる準備期間を経て、2018年2月に特設サイトを立ち上げました。 [※1]。
「総文10周年記念事業」として実施したイベントは、次の通りです。
〈プレイベント〉
〈連続トークイベント〉
〈10周年記念特別対談〉
〈研究室企画〉
〈学生委員会企画〉
〈10周年記念クロージングシンポジウム〉
上記イベントの構成に関連して、先ず明記しておきたいのは杉浦先生にお願いした「プレイベント」の位置付けです。杉浦先生には、総文創設の根幹を担われた人物として「総文の歴史」にとって極めて重要な部分となる「総文の構想や創設の経緯」について語っていただきました。冒頭にも述べたように、このサイトは基本的に「総文というまちの10歳の記念写真」。そのため、2018年度の「総文の素顔」として、本サイトの中心は一連のトークセッションとなりますが、杉浦先生にお願いした「総文誕生に至る経緯の確認」は、10周年記念事業における必須の事項、10周記念事業の活動内容において極めて重要な部分として位置付けているものです。なお、第1回トークイベント「渋谷・青山という都市を語る」において、井口先生に冒頭「総文創設10周年を振り返る」題した単独講演をお願いしたのは、同教授が杉浦先生と共に「総文創設」に大きな役割を果たされたためです。
10周年記念事業の主軸は3回にわたる「連続トークイベント」と「クロージングシンポジウム」です。10周年記念事業委員が各回の企画責任者となり、初回を除いて1日に異なる2つのテーマで構成した実質7回分のシンポジウムを開催 [※2]。「祭りの主役は自分たちなのだから、全員で参加しよう」という考え方のもと、学部・大学院に常勤で所属する研究者(即ち総合文化政策学会の正会員)たちのほぼ全員が登壇しました。また、シンポジウムの会場は、総文が日頃活動の拠点としている青山学院アスタジオ地下ホールとしました。
各シンポジウムの内容はいずれも、総文メンバーだからこそ可能な、実にユニークなものとなりました。そうしたなか、もともと第1回トークイベントの出演を想定していたものの登壇がかなわなかった矢野晋吾教授に、その後何度か工夫を重ね調整を試みたものの最後までご登場いただく機会を提供できなかったのは、残念なことでした。また第3回トークイベント前半では、卒業生や現役の院生も登壇し、各自の体験に基づく貴重な報告をいただきました。
これらシンポジウムシリーズを中心に、10周年記念事業委員会を終始サポートしてくださったのが、小林康夫特任教授でした。「お祭り」が、総文がテーマとする「文化政策」の伝統的手法のひとつであり、祭りの醍醐味はイベントの準備や後片付けのプロセスにこそあることを、筆者をはじめとする10周年記念事業委員会メンバーが常にポジティブに意識することができたのは、小林先生との協働の賜物です。
矢野晋吾教授、小林康夫特任教授、卒業生・院生もトークイベントに登壇
一方、各イベントの運営を支えてくれたのは、現役学部生による「総文10周年事業学生委員会」(委員長:入江恭平/副委員長:高橋旦)でした。メンバーの学生たちは、会場設営から受付、記録等の当日の各種現場作業を見事にこなしてくれました。そればかりか「Be総文コンテスト」を自主的に立ち上げ、企画・募集・フライアーの制作、コンテストから授賞式に至る全プロセスを自分たちで担当・実施しました。また、コンテストの審査員等として参加してくださった岡眞理子元教授たちの存在も、10周年記念事業にとって貴重な支えでした。
なお、各研究室単位で、これまで複数年にわたって開催してきたプロジェクトについて、クロニクル(編年史)的観点からの企画イベントを募集し、10周記念事業のなかに組み込んだのが「研究室企画」。サイトには概要報告のみを掲載していますが、企画内容の詳細は本年度中に発行予定の学会紀要『青山学院大学総合文化政策学』10周年特別号に「プロジェクト研究報告」として掲載することになっています。
10周年記念イベントの最後を飾った「祝賀会」では、現役院生のなかでも既にさまざまな分野のプロフェッショナルとして活躍している社会人学生が中心となって企画制作を担当し、当日の会場を取り仕切りました。委員長の佐藤薫生さんが、その準備段階で筆者に語ったのは「この10周年を機会に大学修了後も自分たちが現役の学生たちと交流できる、総文祭りのようなものが生まれるといいのだが……」といったことでした。卒業生・修了生のネットワークづくり等を今後の課題としながらも、教員・学生のOBOGたちも駆けつけてくれたこの祝賀会は、総文のセンスが随所に光る宴となりました。
これら一連のイベントのなかで唯一、総文外からゲストを招いたのが「特別対談」総文の掲げる目標のひとつが、現代社会に新たな文化的価値を生み出すことのできる人材輩出であるため、その事例となる人物として、近代の枠組みから脱却した新たな音楽活動の領域を追求・実現している坂本龍一氏を、福岡伸一教授が迎える形で企画・開催しました。満員となった当日の会場(本多記念国際会議場)は、「関係する社会全体を視野においたステークホルダーを対象とする」とした10周年記念事業の企画当時のコンセプトが達成されていたことを、はっきりと確認することのできる貴重な場となりました。
以上の企画と制作を、基本的には10周年記念事業委員たちが中心となって行いました。当初の計画内容を縮小したり、走りながら計画の一部を変更ざるをえなかったりしたこともありました。けれども、紀要特別号の出版を残し、今ようやくこのサイトを公開できることを考えると感無量です。
関係者のみなさまからのご理解・ご協力に、この場を借りて感謝申し上げるとともに、次世代を担うメンバーに、総文の今後の発展を託します。
2019.9.12
鳥越けい子(総文10周年記念事業委員長)
※このサイトに登場するイベント登壇者をはじめ、ファカルティーメンバーや学生の肩書き等は、すべて記念事業を実施した年度におけるものです。
※1 10周年記念事業の流れと体制
2017年度:準備・計画
2018年度:各イベントの実施・記録
2019年度:まとめの作業(記念サイトの最終形等の編集作業)
※2 シンポジウムと企画責任者