イベント EVENTS REPORTS 10周年記念第1回トークイベント|2018年4月29日 渋谷・青山という都市を語る

10周年記念第1回トークイベント|2018年4月29日

渋谷・青山という都市を語る

チラシ

クリエイティブ経済と総文の教育

井口 典夫
クリエイティブ経済の時代

30代は経済学を専攻し数学ばかりやってました。40代は経営学部に所属していた関係でマネジメントやマーケティングの研究に没頭し、50歳前後からはクリエイティブ経済の研究に取り組んでいます。クリエイティブ世界に私を引き込んだのは黒川紀章です。同氏の勧めでリチャード・フロリダの業績を何冊か翻訳出版したことで、全国の文化政策研究者や文化人との交流が深まりました。

フロリダのまとめた最近20年間の統計データによると、先進国は主に知識を売ることで稼いでおり、その比率は年々上昇しています。産業のコメは人材と文化になり、国家間の経済競争は都市間の文化競争に変わりつつあります。フロリダはこの大きな変化を「クリエイティブ経済」への動きと捉え、「クリエイティブクラス」という人材(何を創るかを考え出す人)の台頭に着目した上で、必要な政策を提示しました。

伊藤 毅

井口 典夫Norio Iguchi

青山学院大学経営学部教授を経て2008年より総文・教授。1956年渋谷区神宮前生まれ。1980年東京大学卒業後、国土交通省入省。1994年青山学院大学に移籍。専門はクリエイティブ経済、創造都市、メディア、文化政策。文化経済学会・文化政策学会理事、国際文化都市整備機構専務理事などを歴任・兼務。近著に『ポスト2020の都市づくり』(学芸出版)、訳書にフロリダ著『新クリエイティブ資本論』(ダイヤモンド社)がある。

ふるさと青山への思い

上記の研究生活の傍ら、私自身、長年にわたり社会貢献活動を続けてきました。ふるさとはキャンパス周辺エリアです。今は渋谷区渋谷などとなっていますが、かつては赤坂区青山南町とされ、文化的には渋谷ではなく青山です。

まずキャットストリートの活性化から着手。渋谷川に蓋をして公園としたのが起源です。その後、区役所は車道とする計画でしたが、それを人のための道にすべく、同じエリアに住む浜野安宏と連携して沿道に先端的な店舗を次々と誘致し、現在のような人気の商業ストリートにしました。

次に取り組んだのは青山通りの景観整備。国土交通省幹部と相談して事業スキームを練り、渋谷・青山間2.3㎞の街路灯・街路樹・植込み・横断防止柵・歩道敷石などを一新する事業です。沿道地権者を横に繋ぐNPO法人を設立。街並み協定書の締結を経て、青山通りを都内初の景観重要道路に指定してもらいました。舗装は御影石に変え、街路灯・横断防止柵のデザインを自ら考案し、街路樹はケヤキに統一するといった全体計画を決め、国の工事を促しました。
その他、外苑前交差点の歩道上にあった駐輪場は撤去し、多目的広場に変えました。少子高齢化に合わせ、キャンパス前にあった一部歩道橋を撤去し、横断歩道に戻したりもしました。

さらに長く親戚づきあいをしていた岡本敏子の遺志を継ぎ、岡本太郎の大壁画『明日の神話』を井の頭線渋谷駅前のコンコースに招致しました。太郎の暮らした青山との繋がりで、渋谷に芸術の街としての魅力を加えたかったためでもあります。壁画はハチ公に次ぐ渋谷のアイコンとなりつつあります。壁画招致を記念して『渋谷芸術祭』なるイベントを企画し、既に10回の開催を数えています。

こうした私の個人的活動に学生が関心を持ち街中でゼミ活動を始めたことが、文部科学省のGP資金獲得やその後の総文の設立(ラボ・アトリエ実習の開講)につながりました。

「青山書く院大学」と総文の設立

「成功体験や専門分野こそ捨て、常に新しいことに挑戦せよ」「皆が反対することこそ取り組め」。田中一光、三宅一生ほか多くの青山文化人との日常の交流は私にクリエイティビティの精神を植え付けました。特に親しくしていたのは浅葉克己、眞木準の2人。総文の設立イベントを耳にした眞木は宣伝会議コピーライター養成講座50周年事業と一緒にやろうと言い出し、「青山書く院大学」なるイベントを開催。林真理子、秋元康らの協力を得て全国から5000人の若者を集めました。
総文のラボ・アトリエ実習は、同イベントに出演した日比野克彦、中島信也、箭内道彦など錚々たるメンバーが担当するという夢のようなスタートを切ったのでした。

青山学院アスタジオの1階にNHKのスタジオを持って来てくれたのは当時の副会長・永井多恵子。これも私の軽井沢の別荘仲間である鳩山由紀夫、水野誠一、磯村尚徳、松平定知らの後押しがあってのことでした(ちなみにアスタジオのロゴは浅葉、名は眞木の作)。結果、総文生の2人に1人が私の担当するラボ・アトリエ実習を履修し、5人に1人が私のゼミ(演習)に応募し、3人に1人の就職に私が何らかの形でサポートするという状態となりました。

10年にわたる総文の創造教育(ラボ・アトリエ実習)を振り返れば、3つの源流があると言えます。「文部科学省GP」「青山書く院大学」「アスタジオ」です。これらがラボ・アトリエ実習を通して総文生の精神に宿り、総文クリエイティブを支えているのだと思うのです。

総文クリエイティブの未来

総文クリエイティブの最大の魅力は、先端的活動を行っている一流の教員のもと、学生に本物の創造的経験の機会を与える点にあります。テレビ番組の企画制作であれば、本当に放送され、後に視聴率として結果を検証できるものに参画させます。さらに、こうした刺激や感動を全学、そして他へと拡げる活動にも着手しています。昨年秋にはラボ・アトリエ実習が一部を手伝う形で「青学TV」(大学唯一公認の動画配信サイト)を開局。全国大学ニュースランキング年間ベストテンに入る実績を残しました。
研究面では総文のほか東京大学・東京芸術大学・慶応義塾大学など7大学大学院の教員らが集まり「文化政策インターゼミ」を立ち上げ、これまで8回開催しています。私も総文の研究教育内容に最も近い学会である日本文化政策学会・文化経済学会・アートマネジメント学会の理事を務め、それぞれ大会等の開催を通じて総文のPRに努めてきました。

これまで総文クリエイティブのほぼすべてに関わってきた私ですが、60代となって引退が近づいてきました。今後は40代の先生方に是非リーダーシップをとってもらえればと考えています。総文は他大学の追随を許さないほどのリードを保ってきましたが、今後もその地位を維持するには、コアコンピタンスをしっかり認識しておく必要があります。それは青山サブカルチャーをコアとする科目群で基礎知識を蓄えつつ、ラボ・アトリエ実習を通じて本物の創造的経験を積むという点です。総文創造教育の次の10年に期待します。

『新クリエイティブ資本論―才能が経済と都市の主役となる』リチャード・フロリダ/著、井口典夫/訳 2014年12月刊 ダイヤモンド社

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